暇なときのためにと、会社のデスクに置きっぱなしだった本がある。
デスクに置いておいても、会社では結局資料の雑誌や動画やDVDなど誘惑が多いのでなかなか読むことができない。
なので積読はホコリが溜まるので諦めて、帰り道に読むことにした。
山田太一さんのエッセイ集『夕暮れの時間に』。ちょっと前に脳梗塞で倒れられ、療養中だと新聞で読んでいたが、とうとう断筆宣言をされたそうだ。残念でならない。ここにも、年齢と共に刻々と近づいてくる死というものを穏やかに受け入れようとする気配が感じとられ、なんだか切なくなった。山田太一さんのドラマは『ふぞろいの林檎たち』が有名だけど、私は断然『異人たちとの夏』と『君を見上げて』が大好きだ。人生の不条理を抱えながらも人知れず、たんたんと生きている人たちを描くのがとても上手だと思う。
作品には、沢村貞子さんご夫婦についての記述も興味深く、amazonで『老いの道連れ』の古本を1円で買ってしまった。
次に手に取ったのは、『洋子さんの本棚』。小川洋子さんと平松洋子さんの、今まで読んできた本についての対談集。たまたま時間つぶしに入った東京駅の本屋さんで買ってしまった。私は書評の類は、その本を実際に読むときに考えや感じ方が引っ張られてしまいそうなのであまり読まないようにしているのだけど、これは面白かった。同姓だし、お二人の作品が好きなのもあるためか、子供時代からの本の履歴が結構重なっていて、単純に嬉しかった。自分も本との記憶が20年、30年と遡って思い出された。ちょっと驚いたのは、平松さんが山田さんのエッセイを挙げられていて、ついでに沢村さんについても語られていたのにはびっくりした。
そして、極めつけが巻末附録の「人生問答」で、小川さんが「空也」の最中が一番好きだとおっしゃっていた。驚愕。
その日の夕方、上司の打ち合わせに入っていた方から「〇ちゃんも、よかったら食べて」と、空也の最中をいただいたのだ。それも、10年ぶりくらいに。こんな偶然あるのだろうか。
なんだか本の神様に引き寄せられたとしか思えない、嬉しい引き寄せの力を感じた。