私の好物のひとつは、柿である。
人間不思議なもので、
実家の庭には、たわわに甘い実をつける柿の木が生えているのだが、
いつも食卓の上にこの柿が乗せられていた頃は、大嫌いだった(笑)。
しかしだな、実家を出た途端、
「タダ」では手に入らないと分かった瞬間に、柿が好きになってしまった。
都合の良い女を自分勝手に手離して、「ああ、あの女は良かったな」と後悔しているクズ男の言い分だ。
八百屋を通る度、色々な品種を試し買いしているのだが、私は次郎さんと富有さんが好みだなあ。あの四角くぼってりどっしりした感じ、マツコっぽくてたまらんの。
そして!
何より大事なのは、硬いこと。
私は、ガリッガリに硬い柿が大好きなのだ。
皮をむく時に、斜めから包丁を入れた瞬間にゴッと当たるあの感触。
あの歯ごたえと、柔らかい柿に比べて、控え目な甘みが後を引く。
しかし、八百屋に行けば必ず「ガリガリの柿あります?」と店主のオジサンに尋ねるのだが、返事は9割がた「何言ってんだ!甘くておいしい柿は柔らかいのが当たり前なんだ!」と怒られる(笑)。
なので、最近は怒りださなそうな優しそうな八百屋さんにだけ聞くことにしている。
そんなとき。
都心の八百屋さんにて、
「この柿、ガリガリですか?」と店主の男性に懲りずに聞いてみた。
案の定、「いやあ、もうこの時期はほとんど熟れて柔らかくなっちゃってるんですよね」とやんわりと返された。
「そうなんですか…。私、ガリッガリの柿が好きなんですよ…。」
とひとりごとのように呟いたら、突然、背後から
「僕も、ガリガリの柿、大好きなんですよっ!!!」
と、若い男の声がした。振り向くと、若いサラリーマンが立っていた。
「え?、そうなんですか。硬い柿、美味しいですよね?!あの、ガリガリ感たまらないですよね~?」「ですよね~!」
と、生き別れの同朋に会えたような喜び(笑)。
見ず知らずの若い男性と大はしゃぎしてしまった。
すると、
「じ、実は、僕も、ほんとは硬い柿が好きなんですよね…」と、苦笑いするご主人が。八百屋のご主人までもが硬い柿同盟の同朋だったとは(笑)。
硬い柿好きって、マイノリティだと思っていたのだが、意外と市民権があるようだ。
本気で、硬い柿同盟を立ち上げてみようかしらと思う霜寒の日。